ニュースやワイドショーで連日報道されていたので、子供ながらにも忘れられない事件として記憶にあり、本作は意欲を感じるドキュメンタリーであった。
【↓以下ネタバレと不快な表現がございます↓】
当時（1998年）はインターネットはそれなりに普及はしていたが、SNSのようなツールはなく主にテレビや新聞からが情報源であった。自宅前に大勢のマスコミが張りつく光景は異様であった。また真須美氏の顔が料理人の神田川俊郎氏に似ているとのことで、深夜のバラエティ番組でディレクターのテリー伊藤氏が神田川氏に白いバンに乗って登場して欲しいと呼びかけていた。
さらに行政選挙の献金スキャンダルで後に失脚をした自称ノンフィクション作家は、有名なホースの水撒きシーンがサイコパス（精神病質）の矛盾した行動の典型であると学者気取りで豪語していたが、笑いながらの反撃行為は中年女性ではよくやることであろう。逮捕前なのかは記憶が定かではないが、公共の電波で著名人が発言をするべきなのかは疑問があり、視聴率稼ぎの加熱する報道機関を初め、言論人、マスメディアとしての品性を問われる報道姿勢が目に付いた事件であった。
SPring-8 （大型放射光施設 ）による主観的な科学捜査、二転三転するガレージでの目撃証言からの矛盾などは興味深い内容で冤罪である可能性があるという見方もある。県警と特捜（検察）の上下関係もあるだろうが、刑事司法による検察側の作文に右に倣（なら）えの司法判決にはマスコミと同様に憤りしか感じられない。
印象に残ったのは長男の浩次氏（仮名）と父親が、過去に居候をしていたＩ氏の自宅を訪ねるシーンである。これは憶測になるが捜査官に唄った（落とされた）ため司法取引に応じてしまったためなのか、長男のＩ氏への慇懃無礼（いんぎん ぶれい）な態度は、詐欺仲間でありながらも検察の思い描く作文に加担して、共犯者から被害者になれたことで林一家を嵌（は）めたためなのだろうか。温和な青年にも静かな怒りを感じさせる場面であったが、どこか浩次氏とＩ氏との距離感に不思議な違和感が残るシーンでもあった。
このドキュメンタリーから真須美氏が冤罪であるという立証に第三者が説得をさせる要件が揃っていたのかといえば、それでも微妙ではあった。夫婦間の問題や保険金詐欺との絡みが厄介なのも然りではあるが、仮に何かの偶然から生じた犯人不在の過失であっても、客観的な要件のみを起点として事実を具体的に積み上げていくにはあまりにも時間が経ってしまった点も挙げられる。
そしてGPSの件は製作側の焦りから来るもので、業を煮やした上に起きた拍（ハク）をつけるだけの悪手である。思い通りに行かなかった気持ちに一定の理解を示すが、犯罪史に残る事件に映画（ドキュメンタリー）というフィルターを通して公権力に異議を唱えているのだから、再審請求等の心証に考慮した司法に対する冷静な判断と被害者、死刑確定者に配慮をした慎重さはジャーナリズムにおいて必要不可欠である。
冤罪説の真意もさることながら、四半世紀以上も離れている母と子の絆は深く、母性、そして人を信じる心とは一体何であるのかを考えさせるテーマでもあった。
※事件当時の記憶による主観的な見解もあり、事実と異なる場合がございます。
［シアター・イメージフォーラム 10：50〜］
